【令和8年人事院勧告】給与改定の影響は?幼児教育・保育事業者が行うべき実務対応の解説
「令和8年の人事院勧告で公務員の給料が改定されると報じられたけれど、うちの保育園や認定こども園にはどう影響するのだろう?」 このような疑問や、それに伴う給料改定・就業規則変更の手続きに不安を抱えていませんか?
公務員の給与水準を見直す人事院勧告は、公定価格(施設型給付費)の人件費分に反映されるため、民間の幼児教育・保育事業者にとっても人事労務上の非常に重要なイベントです。
特に注意したいのは、人事院勧告の改定率をそのまま職員の給与改定率として使用するものではないという点です。
本記事では、人事院勧告の基礎知識から、保育事業者が確認すべきポイント、具体的な給料改定の手順や注意点まで、社会保険労務士の視点で分かりやすく解説します。
目次
令和8年人事院勧告とは?保育事業者に関わる基本概要
人事院勧告とは、国家公務員の給与や勤務条件について、人事院が国会と内閣に対して改定を勧告する仕組みです。▶人事院勧告について(外部リンク)
国家公務員には労働基本権の一部に制約があるため、その代償措置として、人事院が民間企業の給与実態を調査し、官民の給与水準を均衡させる役割を担っています。
毎年の民間給与の実態を踏まえ、国家公務員の俸給表やボーナスなどについて改定内容が示されます。
令和8年人事院勧告の給与改定内容
令和8年人事院勧告では、国家公務員の月例給について、平均15,056円、3.51%の引上げが示されました。
また、期末・勤勉手当、いわゆるボーナスについても、年間支給月数を4.65月分から4.70月分へ0.05月分引き上げる内容となっています。
では、保育園や認定こども園でも、職員の給与を3.51%上げればよいのでしょうか。
答えは、「そのまま3.51%を適用するわけではない」です。
3.51%はあくまで国家公務員の給与に関する数字です。保育事業者は、今後示される公定価格への反映内容を確認したうえで、自園の給与改定を検討する必要があります。
なぜ保育園・認定こども園に関係するのか
「公務員の給与の話なのに、なぜ民間の保育園が確認する必要があるのか」と感じる方もいるでしょう。
その理由は、保育所や認定こども園などの運営費に使われる公定価格にあります。
公定価格とは、教育・保育に必要な費用として国が定める基準です。そこには、保育士や幼稚園教諭、調理員などの人件費も含まれています。
注目したいのは、この人件費が人事院勧告を踏まえて見直されてきた点です。
例えば、令和7年人事院勧告を踏まえ、公定価格上の保育士・幼稚園教諭等の人件費について5.3%の改定が行われています。
つまり、公務員給与の改定は直接保育士の給与を決めるものではありませんが、公定価格を通じて保育事業者の人件費に影響する可能性があります。
増額された人件費分については、職員の処遇改善につなげる必要があります。
一方で、「全職員の給与を一律に同じ割合で引き上げる」という意味ではありません。
基本給や手当、一時金など、どのような方法で誰に配分するかは、公定価格上の取扱いを確認しながら、各園・法人の給与制度や職員構成を踏まえて検討します。
流れを整理すると、次のとおりです。
人事院勧告が出る
↓
国が公定価格の人件費を見直す
↓
園に入る人件費相当額が変わる
↓
園・法人が職員の給与改善方法を検討する
ここで注意したいのは、人事院勧告の改定率が、そのまま保育士や幼稚園教諭の給与改定率になるわけではないという点です。
公定価格への反映内容や自園への影響額を確認したうえで、給与改定の方法を検討する必要があります。
令和8年人事院勧告が、そのまま令和8年度公定価格に反映されるわけではない
ここは時系列にも注意が必要です。
令和8年度の公定価格に反映されている5.3%の改善は、令和7年人事院勧告を踏まえたものです。
一方、令和8年人事院勧告は令和8年8月に公表されています。
したがって、令和8年人事院勧告による影響については、今後の国の予算措置や、こども家庭庁から示される公定価格の取扱いを確認する必要があります。
「今年度の公定価格5.3%」と「令和8年人事院勧告3.51%」を混同しないよう注意しましょう。
保育・幼児教育事業者への具体的な影響
人事院勧告を踏まえた公定価格の見直しは、主に次のような施設・事業者に関係します。
- 認可保育所
- 認定こども園
- 施設型給付を受ける幼稚園
- 小規模保育事業
- 事業所内保育事業
- その他、公定価格による給付を受ける地域型保育事業
一方、施設の類型や給付の仕組みによって取扱いが異なる場合があります。
まずは自園がどの制度に基づいて給付を受けているのかを確認することが大切です。
給与表・賃金テーブルへの影響
公定価格上の人件費が増えた場合、次に検討するのが「職員へどう還元するか」です。
主な方法としては、次のような選択肢があります。
例えば、
- 基本給を引き上げる
- 給与表そのものを改定する
- 初任給を引き上げる
- 手当を新設・増額する
- 一時金として支給する
といった方法が考えられます。
ただし、増額分を単純に人数で割ればよいとは限りません。現在の給与水準や職種、役職、経験年数などを踏まえ、法人全体の賃金バランスを見る必要があります。
賃金規程・就業規則への影響
給与改定を行うときは、実際の支給内容と賃金規程が一致しているかも確認しましょう。
特に、次のような変更では規程の見直しが必要になることがあります。
- 給与表を差し替える
- 新しい手当を設ける
- 手当額を変更する
- 支給対象者を変更する
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を変更した際に所定の届出も必要です。職員への周知まで含めて対応しましょう。
給与計算や社会保険への影響
給与改定の影響は、基本給だけにとどまりません。
例えば、固定的賃金が変わると、時間外労働の割増賃金や社会保険の随時改定に影響する可能性があります。
あわせて確認したいのは、次の項目です。
- 時間外労働の割増賃金
- 欠勤控除
- 賞与の算定基礎
- 社会保険の随時改定
- 雇用保険料
- 法定福利費
「基本給を上げて終わり」ではないことを意識しておくと、後の修正作業を減らせます。
令和8年人事院勧告を踏まえて今行うべき実務対応
現時点で重要なのは、令和8年人事院勧告の3.51%をそのまま給与へ反映することではありません。今後、公定価格への具体的な反映内容が示された際、すぐ動ける状態をつくっておくことです。
なお、人事院勧告を踏まえた公定価格上の人件費改定と、処遇改善等加算は、それぞれ制度上の位置付けや確認事項が異なります。既存の処遇改善手当との関係も含めて整理しておきましょう。
①現在の給与データを整理する
最初に行いたいのは、職員別の給与データを一度一覧化することです。
- 基本給
- 役職手当
- 資格手当
- 処遇改善に関する手当
- その他の固定的賃金
- 雇用形態
- 職種
- 勤続年数
複数施設を運営している法人では、施設ごとに給与体系が異なっていないかも確認します。
②過去の人事院勧告対応を確認する
次に確認したいのが、前年までの対応履歴です。
- 基本給を改定した
- 特別手当を支給した
- 一時金で調整した
- 給与表全体を改定した
など、過去の対応によって今年度の選択肢も変わります。
過去の対応との整合性を確認しておくことで、職員への説明もしやすくなります。
③公定価格の増額分を確認する
正式な改定内容が示されたら、まず「何%増えたか」ではなく、自園で実際にいくら増えるのかを確認します。
大切なのは、公定価格の「改定率」だけを見るのではなく、実際に自園へどの程度の人件費相当額が入るのかを把握することです。
施設規模、定員、地域区分、職員配置、加算の取得状況などによって影響額は異なります。
④複数の給与改定案を試算する
財源額が見えた段階で、1案に決め打ちせず複数パターンを比較しましょう。
例えば職員50人の認定こども園であれば、
案A:基本給を中心に引き上げる
案B:基本給と手当を組み合わせる
案C:一定額を月例給与へ反映し、残額を一時金で調整する
といった方法が考えられます。
それぞれについて、
- 年間人件費はいくら増えるか
- 法定福利費はいくら増えるか
- 翌年度以降も継続可能か
- 職員間のバランスは適切か
まで試算することが重要です。
給与改定の配分方法を検討する際のポイント
対象となる職員を整理する
まず整理したいのは、「誰に支給するか」です。
例えば、
- 全職員
- 保育士・幼稚園教諭
- 調理員等を含む対象職員
- 正規職員
- パート・有期契約職員
- 主任・副主任等の役職者
公定価格上の取扱いや賃金改善に関する通知を確認したうえで、対象者を決める必要があります。
どの方法で支給するのかを決める
対象者が決まったら、次は支給方法を比較します。
| 支給方法 | 特徴 |
|---|---|
| 基本給 | 職員にとって分かりやすく、継続的な処遇改善につながる |
| 手当 | 対象者や支給目的を設定しやすい |
| 一時金 | 年度内の金額調整を行いやすい |
ただし、基本給を引き上げれば、その金額は原則として翌年度以降も続きます。
財源が一時的なものなのか、継続的なものなのかを確認せずに給与表へ組み込むと、将来の人件費負担が大きくなる可能性があります。
職員への説明まで準備する
最後に忘れてはいけないのが、職員への説明です。
実際には、
「なぜ私はこの金額なのですか」
「全員同じ金額ではないのですか」
「基本給ではなく手当なのはなぜですか」
「いつの給与から変わりますか」
といった質問が想定されます。
金額を決めるだけでなく、なぜその配分にしたのか説明できる状態にしておきましょう。
人事院勧告対応でよくある5つの失敗例
失敗例1|3.51%をそのまま全職員の給与へ反映する
令和8年人事院勧告の3.51%は、国家公務員給与の平均引上げ率です。
保育所や認定こども園の職員について、「必ず3.51%昇給しなければならない」という意味ではありません。
まずは今後示される公定価格上の取扱いを確認する必要があります。
失敗例2|令和8年度公定価格の5.3%と混同する
令和8年度公定価格では、令和7年人事院勧告を踏まえた5.3%の処遇改善が確保されています。
一方、令和8年8月に公表された令和8年人事院勧告は、別の時系列で考える必要があります。
「5.3%+3.51%を今年度の給与へ反映する」といった単純な計算ではありません。
年度と人事院勧告、公定価格改定の対応関係を整理することが重要です。
失敗例3|公定価格が決まってから準備を始める
正式な通知を待つことは必要ですが、通知が出てからすべての準備を始めると、給与計算や職員説明が間に合わない可能性があります。
今のうちに、
- 給与データ
- 給与表
- 賃金規程
- 過去の対応内容
- 人件費試算用データ
を整理しておきましょう。
失敗例4|給与だけ変更して規程を確認していない
給与表や手当の内容を変更したにもかかわらず、賃金規程が以前のままというケースにも注意が必要です。
給与変更を行う際は、実際の支給内容と就業規則・賃金規程が一致しているか確認してください。
失敗例5|職員への説明が不足する
給与は職員にとって非常に関心の高い事項です。
特に配分額に差を設ける場合、「なぜ差があるのか」を説明できなければ、不公平感につながることがあります。
配分基準、対象者、改定時期、支給方法を整理し、職員向けの説明資料を準備しておくと安心です。
社会保険労務士から見た実務上のポイント
実務で最も重要なのは、「何%上げるか」だけで判断しないことです。
保育事業者の場合は、公定価格の改定から職員への支給までを一連の流れで確認する必要があります。
人事院勧告
→ 公定価格
→ 自園への影響額
→ 配分方法
→ 給与規程
→ 給与計算
→ 社会保険
→ 職員説明
という一連の流れで考える必要があります。
特に複数園を運営する法人では、施設ごとに給与水準や職員構成が異なることがあります。単年度の「増額分を配る作業」として終わらせず、法人全体の賃金体系を見直す機会として捉えることも重要です。
また、保育人材の採用が難しい地域では、初任給や若手職員の給与水準が採用競争力に直結するケースもあります。
給与改定を単年度の処理で終わらせず、採用・定着まで含めた給与制度の見直しにつなげることをおすすめします。
まとめ|令和8年人事院勧告への対応は「公定価格の確認」と事前準備が重要
令和8年人事院勧告では、国家公務員の月例給について平均15,056円、3.51%の引上げ、ボーナスについて0.05月分の引上げが示されました。
保育所や認定こども園などにとって重要なのは、この3.51%をそのまま職員給与へ反映することではありません。
確認すべきなのは、
- 令和8年人事院勧告が公定価格へどのように反映されるか
- 自園に入る人件費相当額はいくらになるか
- 誰に、どのような方法で配分するか
- 給与表や賃金規程を変更する必要があるか
- 給与計算や社会保険にどのような影響があるか
という点です。
令和8年人事院勧告の公定価格への具体的な反映内容については、今後の国やこども家庭庁からの情報を確認する必要があります。
しかし、正式な取扱いが示されてから給与データや規程を確認し始めると、実務が集中してしまいます。
今の段階から、職員別給与、給与表、過去の人勧対応、人件費試算に必要な資料を整理しておきましょう。
令和8年人事院勧告については、制度内容だけでなく、各法人の給与制度や職員構成に応じた対応判断が重要です。
令和8年人事院勧告への対応について、「自園の場合はどの程度給与改定が必要なのか」「処遇改善の配分方法に問題がないか」「給与規程の見直しが必要か」など、不安や疑問がある場合は、社会保険労務士へご相談ください。
当法人では、保育所・認定こども園・幼稚園等を運営する法人の給与改定、賃金制度の見直し、就業規則整備など、人事労務に関する実務対応をサポートしています。
よくある質問(FAQ)
Q1.令和8年人事院勧告で、保育士の給与は3.51%上がりますか?
A. 一律に3.51%上がるという意味ではありません。
3.51%は国家公務員の給与について示された平均引上げ率です。
保育園や認定こども園については、今後、人事院勧告を踏まえて公定価格上の人件費がどのように見直されるかを確認したうえで、各法人が給与改定を検討することになります。
Q2.令和8年度の公定価格で示されている5.3%と、今回の3.51%は別ですか?
A. 別に整理する必要があります。
令和8年度公定価格の5.3%の処遇改善は、令和7年人事院勧告を踏まえて確保されたものです。
令和8年8月に公表された令和8年人事院勧告の影響については、今後の公定価格等への反映内容を確認する必要があります。
Q3.給与改定をする場合、就業規則の変更は必要ですか?
A. 改定内容によって必要になる場合があります。
基本給や給与表、手当の名称・金額・支給条件など、賃金規程に定めている内容を変更する場合は、規程の変更が必要になる可能性があります。
給与改定を決定する際には、実際の支給方法と就業規則・賃金規程が整合しているかを確認しましょう。
Q4.人事院勧告への対応として、今すぐできることはありますか?
A. あります。
現時点で給与改定率を決定するのではなく、職員別の給与データ、現在の給与表、賃金規程、前年度までの人事院勧告対応を整理しておくことが有効です。
公定価格への具体的な反映内容が示された際に、すぐ人件費を試算できる体制を整えておくと、その後の対応がスムーズになります。
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