令和9年度障害福祉報酬改定|児発・放デイ経営者が今から準備しておきたいこと
前回のコラムでは、第65回「障害福祉報酬改定検討チーム」をもとに、
児発・放デイをめぐる国の「質重視」の方向性(記事リンク)について解説しました。
今回はその続編として、令和9年度の障害福祉報酬改定を見据え、児発・放デイの経営者が今のうちに整理しておきたい人材・研修・支援体制・加算管理などの実務上のポイントを解説します。
具体的な改定内容はまだ検討段階ですが、正式決定後に慌てないためにも、まずは自社の現状を把握しておくことから始めてみましょう。
目次
まずは人材の棚卸しから始める
最初に取り組みたいのは、法人全体の人材の状況を整理することです。
職員の資格や実務経験年数、雇用形態、配置事業所、担当業務、研修履歴などを一覧にすると、自社の人材構成が見えてきます。
ここで意識したいのは、単に「資格者が何人いるか」を把握するだけで終わらせないことです。
例えば、PT・OT・ST、保育士、児童指導員などが在籍していても、その知識や経験が日々の支援にどの程度生かされているかは、事業所によって異なります。
次のような点にも目を向けてみてください。
- 専門職がケース会議や支援計画の検討に関わっているか
- 経験のある職員が、他の職員への助言や育成を担っているか
- 特定の職員に判断や業務が集中していないか
- 事業所ごとに人材や専門性の偏りがないか
「誰がいるか」だけでなく、「その人材がどのような役割を担っているか」まで把握する。
こうした棚卸しは、報酬改定への備えにとどまらず、今後の採用計画や人員配置、育成方針を検討する際にも役立ちます。
研修を法人全体の人材育成につなげる
第65回資料では、障害児支援に携わる人材の研修体系を整備していく方向が示されています。
令和9年度から基礎・実践研修、令和10年度からリーダー研修、令和11年度からコア人材研修を順次導入する予定とされています。
ただし、具体的な受講対象や制度上の位置付けについては、今後の動向を確認する必要があります。
現時点では、特定の研修を一斉に受講させるよりも、まず現在の研修状況を整理しておくことが現実的でしょう。
確認したいのは、次のような項目です。
- 誰がどの研修を受講しているか
- 今後、どの職員をどのように育成したいか
- 研修時間や受講中の代替要員を確保できるか
- 研修で学んだ内容を職員間で共有できているか
研修は、受講すること自体が目的ではありません。学んだ知識をケース会議や日々の支援に取り入れ、事業所全体の支援力につなげていくことに意味があります。
特に複数事業所を運営する法人では、各事業所の研修状況を法人全体で把握できるようにしておくと、職員の育成方針も立てやすくなります。
個別支援計画と専門職の活用を見直す
今回の議論では、児童発達支援管理責任者を中心に、他の職員と協働して個別支援計画を作成していく考え方も論点となっています。
これは、児発管の役割や責任が小さくなるという意味ではありません。
児発管が中心的な役割を担いながら、現場職員や専門職が持つ情報を、支援計画にどう反映していくか。その仕組みに目を向けることが重要です。
例えば、次のような状況はないでしょうか。
- 個別支援計画の検討が児発管一人に集中している
- ケース会議は行っているものの、職員からの意見が少ない
- 専門職の知識が、他の職員に十分共有されていない
- 日々の支援で得た気づきが、計画の見直しに生かされていない
こうした状況を確認し、情報共有や役割分担を見直すことは、支援の質を高めるだけでなく、業務の属人化を防ぐことにもつながります。
専門職についても、配置人数だけで実態を判断することはできません。
ケース会議への参加やアセスメントへの関与、他職員への助言などを通じて、専門性がどのように生かされているかを確認したいところです。
一人ひとりの知識や経験を、事業所全体の支援につなげられているか。
今後の事業所運営を考えるうえで、意識しておきたい視点です。
支援ニーズの高いこどもへの対応体制を確認する
第65回では、強度行動障害の状態にあるこどもへの支援についても検討されています。
ここで求められるのは、単純に受入人数を増やすことではなく、こどもの支援ニーズに応じた体制を整えるという視点です。
例えば、関連する研修を受講した職員や対応経験のある職員がいるか。特定の職員だけに負担が偏っていないか。家族や学校、相談支援事業所、医療機関などと必要な連携が取れているか。
こうした点を確認することで、自社の強みや課題も見えてきます。
支援ニーズの高いこどもを継続的に支えていくには、職員個人の経験だけに頼らない組織的な支援体制が欠かせません。
今後の評価の詳細はまだ確定していませんが、自社がどのような支援ニーズに対応でき、どこに課題があるのかを把握しておくことは、今からでも取り組める準備の一つです。
加算収益と人員配置への影響を把握する
経営面で特に確認しておきたいのが、児童指導員等加配加算や専門的支援体制加算などの収益です。
第65回資料では、これらの加算を整理・統合し、支援ニーズに応じた事業所全体の支援体制を総合的に評価する仕組みが検討されています。
もっとも、廃止や統合が正式に決定したわけではありません。
現時点で加算がなくなることを前提に人員を減らしたり、新たな要件を予測して増員したりするのは、慎重に判断する必要があります。
まず確認したいのは、事業所ごとの次のような情報です。
- 現在算定している加算と、その収益額
- 売上全体に占める加算収益の割合
- 加算算定に関わる職員の配置状況
- 人件費や採用計画との関係
複数事業所で同じ加算を算定していても、収益への依存度や人員配置の状況は、それぞれ異なります。
あらかじめ現状を把握しておけば、正式な改定内容が示された際にも、どの事業所への影響が大きいのかを検討しやすくなります。
改定内容を予測して動くのではなく、変更があった場合の経営への影響を判断できるようにしておくこと。
今の段階では、そこに重点を置きたいところです。
複数事業所では、法人全体で準備を進める
複数の児発・放デイを運営する法人では、事業所ごとの状況を比較できるようにしておくことも欠かせません。
例えば、5事業所を運営していて、専門職が一部の事業所に集中し、ケース会議の進め方や研修管理も事業所ごとに異なっているケースを考えてみましょう。このような場合は、次の順番で整理すると進めやすくなります。

すべてを一度に変更する必要はありません。
まずは共通の項目で現状を整理するだけでも、事業所間の違いや法人として優先すべき課題が明確になります。
報酬改定への備えは、人事・労務とも一体で考える
報酬改定への対応は、加算の管理だけで完結するものではありません。
研修機会を増やすには、勤務時間や代替要員の確保が必要です。専門職を採用する場合は、人件費や採用計画との調整も欠かせません。職員の役割を広げるのであれば、職務内容や人事評価、賃金、キャリアパスとの整合性も考える必要があります。
また、必要な配置を優先するあまり、休暇が取りにくくなったり、特定の職員に負担が集中したりすれば、人材定着にも影響しかねません。
このように、報酬改定への準備は、採用・配置・研修・人件費・労働時間などを含めた経営課題でもあります。特に複数事業所を運営する法人では、配置基準を満たすことに加え、無理のない勤務体制を維持できるかという視点も必要です。
加算だけを個別に考えるのではなく、経営・人事・現場運営を一体で捉えることが、安定した事業所運営につながります。
今から進めたいこと、まだ急がなくてよいこと
現時点で優先したいのは、大きな組織変更よりも自社の現状把握です。
| 今から進めたいこと | まだ急がなくてよいこと |
| 職員の資格・経験・研修履歴を整理する | 検討段階の情報だけで専門職を大幅に増員する |
| 児発管や専門職の役割を整理する | 加算廃止を前提に人員を減らす |
| ケース会議や情報共有の状況を見直す | 正式要件が出る前に配置を大きく変更する |
| 加算収益を事業所別に把握する | 特定の研修を全職員に一斉受講させる |
もちろん、現在の配置や支援体制に課題がある場合は、改定を待たずに改善を進めることも必要です。
一方、未確定の情報だけを根拠に、採用や配置を大きく変えることは避けたいところです。
制度が変わったとき、自社にどのような影響があり、何を優先すべきか判断できる状態にしておく。
今からの準備では、この視点を軸に考えていくとよいでしょう。
まとめ|制度変更に慌てないための準備を今から
令和9年度の障害福祉サービス等報酬改定に向けて、支援の質を高めるための人材育成やチーム支援、専門人材の活用、支援ニーズに応じた事業所全体の体制などが検討されています。具体的な報酬単位や算定要件は、まだ確定していません。
今の段階で経営者が取り組みたいのは、制度を先読みして組織を大きく変えることではなく、人材・研修・支援体制・加算収益の現状を整理しておくことです。
自社の状況が見えていれば、正式な改定内容が示された際にも、採用・配置・研修・人件費への影響を冷静に判断できます。
「自社の場合、どこから手をつければよいのか」「現在の人員配置や労務管理に見直すべき点はないか」と迷う場合には、制度と人事・労務の両面から整理してみることも一つの方法です。
よくある質問(FAQ)
Q1.令和9年度改定に備えて、今から職員を増やした方がよいですか?
A.現時点の検討内容だけを理由に、すぐ増員を決める必要はありません。
まずは、現在の職員について資格・経験・配置・役割・研修履歴を整理し、自社に不足している機能や専門性があるかを見ていく方が先です。
そのうえで、必要性が明確になった段階で、事業計画や人件費とのバランスを見ながら採用を検討する形が現実的です。
Q2.児童指導員等加配加算がなくなる前提で経営計画を立てるべきですか?
A.現時点で、加算がなくなることを前提に考えるのは適切ではありません。
今後の見直し内容はまだ検討段階であり、具体的な取扱いは変更される可能性があります。
ただし、現在その加算が自社の収益にどの程度影響しているのかを把握しておくことは有効です。改定内容が正式に示された際、収益や人員配置への影響を判断しやすくなります。
Q3.最初に何から手をつければよいですか?
A.まずは、法人全体の職員について「資格・経験・配置・研修履歴・現在の役割」を一覧にするところから始めると整理しやすいでしょう。
その一覧をもとに、児発管への業務集中、専門職の関わり方、研修体制、加算収益などを順に見ていくと、自社で優先して考えるべきことが見えやすくなります。
参考資料
-
厚生労働省「第65回 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76565.html -
厚生労働省・こども家庭庁「障害児支援に係る報酬・基準について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001755910.pdf
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