社労士が解説:中小企業のリスキリング入門— 進め方・制度設計・KPI
目次
はじめに:なぜ今「学び直し」なのか
ここ数年で、DXやクラウド、AIといった言葉は日常語になりました。紙や手作業を前提にしていた業務は、データ活用と自動化を前提とする進め方に置き換わり、仕事の中身そのものが変わっています。こうした環境では、入社時のスキルだけでキャリアを走り切ることは現実的ではありません。
そこで必要になるのが、働きながらスキルを更新する「リスキリング」です。
この記事では、中小企業の経営者・人事の方向けに、リスキリングの意味、企業が取り組む目的、制度設計の要点、そして成果の測り方までを、社労士の視点でやさしく解説します。
リスキリングとは?
リスキリングは英語の「reskilling」に由来し、日本語では一般に「学び直し」と訳されます。表面的な知識の付け足しではなく、業務で求められる役割が変化した際に、それへ適応するための新しいスキルを実務レベルで身につける取り組みを指します。
大切なのは、学ぶこと自体を目的にせず、学んだ内容をすぐに仕事で使い、その結果を評価や配置、手当に反映させるところまでを一つの流れとして設計することです。
事業目標から逆算して必要な役割とスキルを言語化し、短時間で学んでは現場で試し、結果をフィードバックして定着させる。この循環が途切れず回ることで、現場のやり方は自然と新しい標準に置き換わっていきます。
背景:DX・クラウドで仕事が変わる
DXやクラウドの普及は、便利なツールが増えたという話にとどまりません。情報の探し方、意思決定の速度、コミュニケーションの設計、セキュリティの考え方まで、企業活動の土台が入れ替わりつつあります。
これまで一部の担当者に依存していた集計やレポート作成は、テンプレートと基本的なデータリテラシーで多くの社員が担える業務へ変わり、属人化の解消と納期の安定につながります。変化が続く環境では、在職中にスキルを更新する仕組みとしてのリスキリングが、企業にとっても個人にとっても不可欠です。
企業がリスキリングに取り組む目的
企業がリスキリングに取り組む最大の狙いは、社会や市場から求められる仕事を社内で確実に実行できる体制をつくることにあります。
採用が難しい局面では、外部から「完成された人材」を獲得する発想だけでは限界があり、社内人材を計画的に育てるほうが、スピード、コスト、文化適合の面で優位に働くことが少なくありません。加えて、作業の標準化やテンプレート化が進むことで、「探す・直す・やり直す」といったムダが減り、ミスや差し戻しも目に見えて減少します。
学びの機会が整った会社は、従業員のエンゲージメントが高まり、離職の抑制や採用広報の観点でもプラスに作用します。さらに、制度変更や新ツールの導入に対しても、基礎体力のある組織は移行コストが低く、安定して成果を出し続けられます。
制度設計:評価・勤怠・個人情報を“セット”で
リスキリングは、研修を実施すれば自然に根づくものではありません。就業規則、賃金規程、勤怠運用、個人情報の取り扱いを含む制度面の設計が伴ってこそ、現場での実装が安定します。
まず、会社の指示性があり、評価や処遇に結び付く学習については、労働時間に該当し得る点に留意が必要です。勤務内・勤務外の扱い、残業や振替、手当の付与などを明文化し、打刻と記録を正しく行う仕組みを整えます。
次に、評価と処遇の連動です。合格ラインは「観察できる行動」を一文で示し、達成した場合の等級や職務給、手当との接続をあらかじめ明示します。
最後に、学習ログやテスト結果の取り扱いについて、利用目的、保存期間、アクセス権限をルール化し、在宅学習を含む場合には休憩や姿勢、機器環境などの安全衛生面もガイドとして配布します。これらを前提に運用することで、学びは単発のイベントで終わらず、日常業務の中に定着していきます。
成果の見える化:効果測定とKPIの考え方
リスキリングの評価は「時間・品質・リスク」の三点だけを毎月同じ指標で記録すれば十分です。難しい集計は不要で、短く・同じ物差しで続けることが要です。
時間は「何分短くなったか」を業務ごとに出し、月の回数と人数を掛け合わせます(例:12分短縮 × 40回 × 3名=月24時間削減)。
品質は差し戻しや修正が何件減ったかを数え、1件あたりの手直し時間を掛ければ削減時間になります。
リスクは、以前発生していた遅延やトラブルが何回なくなったかを数え、1回あたりの調整時間を掛ければ回避効果が出せます。
月次レポートはA4一枚、「今月の短縮時間」「今月の差し戻し減」「今月のリスク回避」と「来月やること」を各一行。精密さより、同じ指標で続けることが最大の効果です。
“今日から”始める小さな一歩
最初の一歩は、大がかりな仕組みではなく、明日から変えられる習慣から始めるのが効果的です。評価表を先に配布し、合格すれば評価や手当、役割がどう変わるかを明確に伝えると、学ぶ理由が腹落ちします。
提出物は毎回ひとつの雛形ファイルに集約し、成果の説明は一分で要点だけを共有すると、評価の負担が小さく継続しやすくなります。ファイル名は「会社名_YYYYMMDD_件名」、共有フォルダは「受領・作成中・完了」の三階層に固定するだけでも、資料探索の時間は確実に減ります。
学習時間は勤務内に三十分の固定枠を設け、会議と同じ扱いでカレンダー登録と打刻を行えば、労務リスクを抑えつつ習慣化が進みます。
こうした小さな改善の積み重ねが、短期間に体感できる効果を生み、その後の本格的なリスキリング施策の滑走路になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 小規模な会社でも効果はありますか?
A1. 効果はあります。対象と範囲を絞り、翌週から仕事で使える内容だけにすると、短時間でも手応えが出ます。まずは社内の実物(帳票・画面・台帳)を教材にして、小さく始めるのがおすすめです。
Q2. 何から教えればよいか分かりません。
A2. 事業目標から逆算し、観察できる行動で到達基準を一文にしてください(例:雛形にデータを貼り替えて期限内に提出できる)。学ぶ→すぐ使う→確認する、という流れを毎回設計すると定着します。
Q3. 勤務時間外の学習は残業になりますか?
A3. 会社の指示性があり、評価や処遇に連動する学習は労働時間に該当し得ます。就業規則・賃金規程で勤務内/勤務外、残業・振替・手当の扱いを明文化し、勤怠の打刻と記録を整えて運用してください。
Q4. 社外研修と社内研修はどちらが効果的ですか?
A4. 初期は社内研修が有効です。自社の帳票や画面など実物を教材にすれば、学んだその週から業務に反映できます。幅を広げたい段階で、社外研修や外部講師の活用を足すと、知識の抜けや思い込みを補えます。
Q5. 学んだ社員が転職しないか心配です。
A5. スキル獲得が評価・手当・役割拡張につながる道筋を示し、挑戦できる業務を用意すると定着につながります。社内でキャリアを描ける状態をつくることが、最善の離職抑制策です。
まとめ:学びを“制度”にして、現場で回す
リスキリングは、個人のキャリア形成だけでなく、企業の競争力を高める取り組みです。
重要なのは、学びを単発のイベントにせず、事業目標から逆算し、評価・勤怠・個人情報のルールとセットで“制度”に落とし込むこと。小さく始め、仕事で使い、数字で確かめる。この地道なサイクルが、変化の激しい時代でもぶれない企業の基礎体力をつくります。
社会保険労務士法人FINEでは、目的設計、制度設計、評価制度の作成、教材化まで、お客様の状況に合わせて伴走します。まずは身近な業務から、一緒に学び直しの一歩を踏み出しませんか?
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